2009年3月1日日曜日

モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて


モサド言えば、ゴルゴ13。その元モサド長官の証言。まあ、スパイの親分というよりは、苦労するお役人といった感じです。選挙で選ばれた首相の意向によって動くが、プロフェッショナルとして業務には責任を負わねばならず、その折り合いをどうつけるかが大変だ、と結構なページを割いて説明しています。最終的な責任を負いもしないのに、あれこれ政治家が細かに口出しするのは良くないと批判してますな。

政治 vs 官僚、というのはどこの国でも難しいってことですな。

指導者を身近に観察する立場にもあったわけで、とにかく、ペレスがかなり低評価です。野心先行で人気取りに動きたがり、情報はリークするは、自分に権限もないのに他国の首脳にできない約束をしてしまうは、で著者はあとで尻拭いをさせられて辟易。

そのペレスですが、今は・・・、大統領やんか

アラファトを失脚させるときの動きも事細かに書かれていてますな。アラファトのことは、本当にひどくかれてます。約束を守らず、自分の地位保全に汲々とし、カネに汚く、指導者としての資質に欠けるとかで。

印象に残った点としては

①イスラム系マイノリティの不満が高まっていることを著者が心配していること
ロンドン地下鉄テロは、イギリス生まれのイギリス育ちのイギリス人によって行われいて、外部からの侵入者によるものではないこと。ヨーロッパにはイスラム系移民が多数居て、コミュニティを形成。貧しい生活を強いられていて不満が高まっている。そうしたコミュニティーを諜報活動の対象にするなど、しっかり対応しないと大変だと著者は主張しています。

これはイスラエル領内に居るパレスチナ人問題と同じだ、とも。

②北朝鮮とイスラエルの関係
イスラエルは北朝鮮に安全保障の面で直接利害関係を持っている点。北朝鮮が中東に、まあ、本書ではエジプトを名指しで、ミサイルを供給。イスラエルにとってはやめさせたい。本書では書かれていませんが、米国が北朝鮮問題に関与する際には、イスラエルのことも念頭にあるんだろうな、と想像できますな。

③テネット元CIA長官
テネット氏を高く評価しています。ここ数年、各国の諜報および治安の国際的な連合を築いたのはテネット氏の人格によるところが大きいとか。何のとこかわかりませんが、テロ対策で各国をつなげたくらいの意味ですかな。911の失策で辞めさせられたのは残念だと。

国家情報長官ポストを米国が新設したことへの懸念
CIA長官の上位にさらに長官ポストを置くことで、最終責任を誰が負うのかがあいまいになるのが心配とか。すべてに責任を負う人間が、人事権を含めて全権を掌握していなければならず、こうした上位にさらに分厚い官僚組織を置くことはまずいんじゃないか、とか。

⑤表舞台でのモサド
モサドは外交交渉にも直接からんでいるようで(だから外務省と対立関係にある)、イスラエル側からみた、国際外交交渉の舞台裏が本書で語られます。

まあ、最近、ユダヤロビーの問題や、パレスチナ人殺戮で不人気な感じのイスラエルですが、イスラエル側からみた安全保障について、と言った感じの本でもあります。



ちなみに、最近の動きとしてですが、①のイスラム系マイノリティ問題について、④の米国国家情報長官が、2月12日のステートメントで触れています。 著者の指摘が功を奏したということなんですかね。


The social, political, and economic integration of Western Europe’s 15 to 20 million Muslims is progressing slowly, creating opportunities for extremist propagandists and recruiters.
The highly diverse Muslim population in Europe already faces much higher poverty and unemployment rates than the general population, and the current economic crisis almost certainly will disproportionately affect the region’s Muslims. Numerous worldwide and European Islamic groups are actively encouraging Muslims in Europe to reject assimilation and support militant versions of Islam. Successful social integration would give most ordinary Muslims a stronger political and economic stake in their countries of residence, even though better educational and economic opportunities do not preclude radicalization among a minority.

西ヨーロッパのムスリムは15百万人から20百万人いてゆっくりと社会、政治、経済上の統合を進めており、そのことが、過激派のプロパガンダを広めることや新規メンバーの勧誘をしやすくしている。ヨーロッパのムスリムは一般市民に比べて貧困や失業の比率がかなり高く、あしもとの経済危機は確実にムスリムの方により厳しい影響が及ぼすことになる・・・。