2009年10月22日木曜日

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

ブッシュさんの時代にずいぶん暴れて、イラクで失敗、オバマさんもアフガンで苦労してて、米ドルは下落する一方で、と米国凋落説なり、米ドル基軸通貨じゃなくなる説なんかが、話されているわけですが、本書によると、21世紀は米国の時代だと。

米国はまだ若い国で、これからであって、いろいろ無茶するのもそのせいだ、とか。また、米国はあまりに強いので、政策の失敗に対するバッファーが結構あって、無茶しても結構大丈夫なこともあって冒険的な政策がとれたりする。

さて本書によると、

米国の強さは、他を圧倒する軍事力。どの海域にあっても米国の監視を潜り抜けるわけにはいかない。米国は地政学的に大西洋と太平洋に面し、海に面しているという面で非常に優位でもある(世界を海から支配できる)。

ロシアは今世紀前半に崩壊。人口が減少していて、軍隊を維持できず。いずれは他国の草刈り場になる。

中国も沿海部と内陸が分裂。沿海部は日本の資本との連携を強め、中央に対する忠誠を失う。分裂は中国の過去の歴史の繰り返しに過ぎない。あえて統一をしようとするならば、経済発展を捨てて内に閉じるしかない。中国は世界の断層線にはなりえない。

米国に挑戦する勃興国は、日本とトルコ。いずれ両国は同盟関係となり米国に軍事的に挑戦するかも。戦いは宇宙を舞台にはじまり、最後は日本の負けに終わる。

ポーランドは米国の後ろ盾を得て、大国化。

米国の戦略は、ユーラシア大陸を圧倒的に支配する統一国家を作らないこと(分断統治)。ポーランドを支援するが、強くなりすぎないようにコントロール。イスラム原理主義は驚異ではない。すでにアルカイダは反米国イスラム同盟の組成に失敗している。

トルコー日本同盟は負けるが、米国は両国をつぶさない。巨大化は避けるがバランスを重視。

メキシコが今世紀の終わりに米国に挑戦する。人口減で米国の移民政策は大きく変化。移民の獲得が必要となり、メキシコ国境を解放。メキシコ国境付近はラティーノで占められる。国境付近は米国よりメキシコに心理的に従属。米国民だが、彼らの立場をメキシコ大統領が代弁するようになるかもしれない。メキシコが米国移民にも選挙権を渡したりして。

と、内部からメキシコは米国を少しづつ侵す。メキシコ国境付近の連邦からの独立志向があおられて、軍事衝突もあり。そうした動きには米国は弱い。

とまあ、出来事を追ってゆくだけでも結構面白いんですが、

本書のポイントは地政学的にハナシを詰めるとそうなるだろう、そうならざるを得ないんだ、と論理的に詰めていっているところです。チェスの試合で、打ち手は何十通りもあるとしても名人になればなるほど、打てる手は限られてくる。それと同じで、与えられた状況から、時の政権の支配者がだれであれ、やれることは極めて限られていて、結局ある程度、成り行きは予想できると。

状況というのは、地理であり、人口動態であり、テクノロジーであり、過去のいきさつであり・・・。

米国がこれからも圧倒パワーだ、というのも、まあ、そうですよね、ってとこでしょうか。


2009年8月9日日曜日

売国者たちの末路

植草さんと副島さん。
このお二人の対談だとやはり気になりますな。



こないだ窃盗で起訴猶予になった高橋洋一さんのことまでカバーされていて、読んでて面白い。植草さんのちかん事件と、高橋さんの窃盗をどうつなげて考えるのか、もともと、お二人は敵同士じゃあ・・・、って感じでして、植草さんは反竹中、高橋さんは竹中さんを支える立場だったわけで。竹中さんたちに植草さんがやられたという説明はわかりますが、高橋さんは?

で、本書では、財務省+アメリカ連合 対 その敵対者の図式で話されていて、

植草さんは財務省米国連合の政策実行政権だった小泉+竹中さんと敵対し、つまり不況下での緊縮財政はよろしくないと言い続け、りそな銀の救済の影に政権関係者のインサイダー疑惑を指摘し続けた。まあ、本書によると竹中さんが大臣になる前から政策論の不一致で竹中さんとの人間関係は良くなかったようですが。

高橋さんは、小泉政権後、財務省を辞めたのちに財務省を批判し続けたんで、財務省米国連合を怒らせた。

二人とも、黙らせるために、ちかんや盗みでつかまえちゃえってことになったんだろう、というハナシで。

ほんまかいな、と眉にツバしながら読むのが正しいと思いますが、しかし、小沢さんの秘書逮捕事件みたいな、結構、テキトーであることがバレバレになってしまったこともあって、


まるまま信じてしまう人も、読者の中には沢山いるに違いないですね。




2009年6月21日日曜日

この国を守るための外交戦略

著者の岡崎氏といえば、テレビなんかで、アングロサクソンにくっついてさえいれば日本は大丈夫なんですよ、とおっしゃるのを聞いて、引きまくった記憶があるんですが、

そんな根拠のないハナシをしているはずもなく、と本書を買って読んでみたわけでして、


キーワードとしては、歴史と地政学。著者によれば、日本の安全保障が安定して平和だったのは、日英同盟があった期間と、日米同盟がある今の時期だけだ、と。ということは、米英との関係が悪化すると、やばくなった、てことで。

もともと、地政学的にみて、日米の利害は歴史を通じて(といっても明治来ということですが)一致していた。利害というのは、ユーラシア大陸における両国の利害ということです。大西洋をはさんでユーラシア大陸の欧州と対峙するのに英国という島国を同盟国として一体で取り組むように、太平洋をはさんで、大陸のアジアと対峙するのに、日本という島国を同盟国として一体で取り組むのが地政学的に安定していて優れている、というんですね。日本にとってもロシア、中国という大国と対峙するのに、米国と組むのが丁度具合が良いってことで。

こうした地政学的な事情は長期に安定していて、一時的な政治的な関係で壊したりしてはいけない、太平洋戦争は、米国が中国にセンチメンタルに肩入れして、あるいは政権間の外交的な齟齬が発展して発生してしまったが、違う選択支があった、ともおっしゃっておられます。

米国は世界的に孤立してて、みたいなことは心配しなくても、軍事的に圧倒パワーである限り、覇権国であり続け、くっついときゃ良い、みたいなニュアンスもあります。

歴史と、主要な議論を踏まえて立論されていること、緻密であること、で説得力のある論理展開です。

まあ、アングロサクソンについていきゃ良いみたいなものの言い方は別として日米を見る図式はとてもわかりやすいです。

日中国交回復を達成した田中角栄の外交を日米同盟の観点からかなり強く批判している点にはびっくりで、本書日本外交のひとつの立場を主張しているということですね。きちんと主張をするには、当然ながら立場というものは出てくるのであって、あっちも立ててこっちも立ててみないなへっぽこ議論より数段わかりやすく、フェアな主張だと思います。

個人的には、外交がテーマだとしても、視野が、つまり成功と失敗の判定が、外交の世界に狭く限定されすぎていること、米国がそんなに信頼できるんか、という感じが最後まで残りました。まあ、これは時事評論をあつめただけの本なんで、もう少し体系的なご本もあるようなので、そっちを読むべきですかな、

2009年6月15日月曜日

動産担保革命

もともと、銀行員だった著者が、ドンキホーテに派遣されることになり、そこで出会ったスゴ腕のバイヤーの商品目利き力、つまり、どれだけの価値があるのかを見極める力にインスパイアされて、在庫の評価NPOを立ち上げるまでのストーリー、とでも言いますしょうか。

銀行員時代は、ビジネスマッチングで、仕入れ先や売り先を紹介して、取引先を助けることに奔走。取引先がどこからいくらで仕入れて、という商流を全部頭に入れていたんだそうです。

銀行は担保主義にかまけていてビジネスの本質を捉えることをしていない、何とか担保によらない融資ができないか、とずっと思っておられたそうで。

そこで、出会ったのが、商品目利き力ということですな。

まあ。在庫も担保にするんだから担保主義やんけ、という突っ込みも可能ですが、不動産担保と違って、ビジネスに直結する担保だし、商売そのもので保全するので、ちょっと事情は違うってことで、しかも、不動産と違って、ビジネスに関係なく貸す、ということはなくなるわけで。

実務的に役立つ本というよりは、著者の思いやら、法律が整備されてどう変わってきたか、なんかを生き生きと伝えてくれる本、という感じです。






本書ではゴードンブラザーズジャパンの社長との面談したことも書かれています。

ゴードンブラザーズって、会社が清算するときに、買いにきたりする会社のようです。

最近では、エディバウアが法的破綻した場合の買い手として登場してますな。
The Wall Street Journal reports the clothier may file for bankruptcy protection by the end of this week. Waiting in the wings are familiar bankruptcy buyers Hilco Consumer Capital and Gordon Brothers, as well as CCMP Capital Advisors.

2009年5月7日木曜日

厚生労働省崩壊

もともと、インフルエンザワクチンの効果に対していろいろと疑義があることは伝えられており、私自身も打たないことにしています。最近の新型インフルエンザに対する対策にも微妙な感じを受ける者として、何かよくわかる解説本は無いかと探していると、ありました。

厚労省の現役技官が書いた告発本。


そもそも、水際でインフルエンザウイルスが海外から入ってくるのをとめるなんて、ムリだ、と書かれております。体温の高い人を見つけるサーモ機械を使っても、発見率はかなり低いそうで、SARSの時にも全く効果が無かったそうです。

そもそも、10日間も潜伏期間があるのに、発症していない人はどうすんだ、というのは素人にもわかりますな。

水際で防ぐのではなく、入った後の対策を本来はすべきなのに、全く体制ができていない。バイオテロに狙われたらどうすんだ、というのが、本書の主題です。

いろんなエピソードを積み上げて、厚労省のつまらなさをあげつらう、という手法もとられてはいますが、基本的な骨格はきちんとしていて、構造的な弱点がどこにあるのか、具体的に、それこそ現役の検疫官なので、実によくわかります。港で感染者を運ぶのに、ちいさなバンが一台あるだけ、とか。地公体と連携しないと動けないにもかかわらず、そんな体制は準備されていない、とか、病院も設備も不足、隔離するための場所も実は現場がホテルを探し回らねばならない、とか。

むかし、東京から大阪に行く日航ジャンボが墜落した際に、緊急対応が全くできてなくて、救助の初動がかなり遅れてしまったことを思い出しますな。頭で考えた段取りしかなくて、実際に大規模な事件が発生すると規則に縛られてうまく動けない。

おそらく、著者の言うように、バイオテロで天然痘ウイルスがばら撒かれるような事態になったら、多分広まりまくるんでしょうな。そして、かなりの人が亡くなって、世界からは孤立して・・・。

読んでいると悲しくなりますな。

2009年4月29日水曜日

日本経済の罠


竹中平蔵氏が絶賛していて、小泉政権に居たときに本書のロジックを使った、とあれば読まずには居られないって感じなんですが、


米国の金融危機に日本の教訓と生かせ、とか言われてて、それって何? という意味でも、本書を参照するといいんでしょうな。なんせ当時の政策当事者が参考にした位なんで。竹中さんは大臣室に著者を呼んだりもしたそうです。

著者が嘆くのは、日本の経済政策論争が、公共投資による需要喚起型のケインズ派と、供給サイドの規制緩和、企業リストラを主張する構造改革派の不毛な二元論の図式に還元されてしまい、どちらも批判に真摯に応えず議論が深化して行かない状況です。相手を批判し、言いっぱなしで終わり。

確かに、竹中さんの政権時代の回顧録を読んでも、先に結論ありきになっていて根拠薄弱な議論しか政権内ではなされない、と嘆いておられます。各省の立場で望ましい結論を先に持っていて理屈は後から、ってなわけで。

で、中身ですが、主な論点は以下。

○二元論に対する批判
①ケインズ派は、需要の一時的な不足を公共投資で補ううちに経済が自然回復するのを待つスタンスだが、実際には公共投資をやめると経済はまた落ち込んでしまい、中長期的には効果がでていない。逆に財政赤字がふくらみ将来の危機を呼び寄せてしまっている。中長期的に有効な施策ではない。
②構造改革派は、供給サイドの効率化を実現し中長期的な成長を狙う。著者もその意義を否定しないが、供給サイドの改革は一時的に効率アップを通じて、必要な労働力を削減、失業の増加、需要の圧縮を通じて経済浮揚に逆効果を生む。
③リフレ派(ケインズ派の変形)は、インフレターゲットや、金融の大幅な緩和(インフレ期待を醸成して実質金利を引き下げる)によって、需要を喚起する施策であるが、これはすでに日本の経済が成熟期を過ぎて縮小してゆくことを前提にしているが、そもそもそのような前提を置くべきか。著者は政策効果自体を否定しないが他にやるべきことがある。

○現状分析
①不良債権問題は金融システム問題としてのみ捉えるべきではない。不良債権の存在が、金融機能の不全にとどまらず、経済の成長を阻害していると考える。
②ミクロ的に捉えると不良債権のペナルティとして、不良債権(企業で言えば借入過大)があると銀行返済を優先せざるを得ず、先行投資などのリスクテイクができなくなる。
③マクロ的には信用収縮を通じて信用制約がきつくなり、企業が全般的に資金調達が難しくなる。
④しかし、低迷が長引いてしまう理由は①②だけではない。現状は(執筆当時)不良債権の先送りが行われ企業の生殺与奪権を銀行が握っている。しかも会計の透明性が確保されていない現状では、銀行判断がどう下されるか外部には全くわからない。したがって企業、家計等の各経済主体の行動としては最悪事態を想定して行動。実態以上にリスク回避的となる。『ナイトの不確実性』
⑤さらに、リスク回避行動は、本来であれば行われていた企業連携、企業間のすり合わせ行動を阻害し、本来の生産性向上、成長を実現することができないから。著者は経済には複数均衡状態がある、と考えており、不必要にリスク回避的な企業行動は結果的に低位の均衡状況を生みだす。win-winの関係が築けず、lost-lostの結果を招く。相手方に特化した先行投資などは回避される。『ディスオーガニゼーション』

○処方箋
①したがって、不良債権は早急に処理されるべきで、直接償却、当局資産査定の厳格化、会計監査の厳格化、企業破綻法制の整備、資産投売りの防止や債権者間調整のコスト削減のための市場原理導入、が必要だ。

とまあ、こんな感じですかね。

厳格な資産査定については、アメリカでも銀行の資産査定が行われいて5月頭には結果が発表になるようですが、こうした論理を参考にしているのかも知れませんね。




2009年3月1日日曜日

モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて


モサド言えば、ゴルゴ13。その元モサド長官の証言。まあ、スパイの親分というよりは、苦労するお役人といった感じです。選挙で選ばれた首相の意向によって動くが、プロフェッショナルとして業務には責任を負わねばならず、その折り合いをどうつけるかが大変だ、と結構なページを割いて説明しています。最終的な責任を負いもしないのに、あれこれ政治家が細かに口出しするのは良くないと批判してますな。

政治 vs 官僚、というのはどこの国でも難しいってことですな。

指導者を身近に観察する立場にもあったわけで、とにかく、ペレスがかなり低評価です。野心先行で人気取りに動きたがり、情報はリークするは、自分に権限もないのに他国の首脳にできない約束をしてしまうは、で著者はあとで尻拭いをさせられて辟易。

そのペレスですが、今は・・・、大統領やんか

アラファトを失脚させるときの動きも事細かに書かれていてますな。アラファトのことは、本当にひどくかれてます。約束を守らず、自分の地位保全に汲々とし、カネに汚く、指導者としての資質に欠けるとかで。

印象に残った点としては

①イスラム系マイノリティの不満が高まっていることを著者が心配していること
ロンドン地下鉄テロは、イギリス生まれのイギリス育ちのイギリス人によって行われいて、外部からの侵入者によるものではないこと。ヨーロッパにはイスラム系移民が多数居て、コミュニティを形成。貧しい生活を強いられていて不満が高まっている。そうしたコミュニティーを諜報活動の対象にするなど、しっかり対応しないと大変だと著者は主張しています。

これはイスラエル領内に居るパレスチナ人問題と同じだ、とも。

②北朝鮮とイスラエルの関係
イスラエルは北朝鮮に安全保障の面で直接利害関係を持っている点。北朝鮮が中東に、まあ、本書ではエジプトを名指しで、ミサイルを供給。イスラエルにとってはやめさせたい。本書では書かれていませんが、米国が北朝鮮問題に関与する際には、イスラエルのことも念頭にあるんだろうな、と想像できますな。

③テネット元CIA長官
テネット氏を高く評価しています。ここ数年、各国の諜報および治安の国際的な連合を築いたのはテネット氏の人格によるところが大きいとか。何のとこかわかりませんが、テロ対策で各国をつなげたくらいの意味ですかな。911の失策で辞めさせられたのは残念だと。

国家情報長官ポストを米国が新設したことへの懸念
CIA長官の上位にさらに長官ポストを置くことで、最終責任を誰が負うのかがあいまいになるのが心配とか。すべてに責任を負う人間が、人事権を含めて全権を掌握していなければならず、こうした上位にさらに分厚い官僚組織を置くことはまずいんじゃないか、とか。

⑤表舞台でのモサド
モサドは外交交渉にも直接からんでいるようで(だから外務省と対立関係にある)、イスラエル側からみた、国際外交交渉の舞台裏が本書で語られます。

まあ、最近、ユダヤロビーの問題や、パレスチナ人殺戮で不人気な感じのイスラエルですが、イスラエル側からみた安全保障について、と言った感じの本でもあります。



ちなみに、最近の動きとしてですが、①のイスラム系マイノリティ問題について、④の米国国家情報長官が、2月12日のステートメントで触れています。 著者の指摘が功を奏したということなんですかね。


The social, political, and economic integration of Western Europe’s 15 to 20 million Muslims is progressing slowly, creating opportunities for extremist propagandists and recruiters.
The highly diverse Muslim population in Europe already faces much higher poverty and unemployment rates than the general population, and the current economic crisis almost certainly will disproportionately affect the region’s Muslims. Numerous worldwide and European Islamic groups are actively encouraging Muslims in Europe to reject assimilation and support militant versions of Islam. Successful social integration would give most ordinary Muslims a stronger political and economic stake in their countries of residence, even though better educational and economic opportunities do not preclude radicalization among a minority.

西ヨーロッパのムスリムは15百万人から20百万人いてゆっくりと社会、政治、経済上の統合を進めており、そのことが、過激派のプロパガンダを広めることや新規メンバーの勧誘をしやすくしている。ヨーロッパのムスリムは一般市民に比べて貧困や失業の比率がかなり高く、あしもとの経済危機は確実にムスリムの方により厳しい影響が及ぼすことになる・・・。


2009年2月28日土曜日

日本人が知らないおそるべき真実 番外編


インボー説の類は読まないようにしてますが、本書は数字が出ているし、中身もそんなに変じゃなさそうで、結構売れてそうでもあって読んでみました。

財政赤字やら、金融やらのハナシ、真面目な議論だと思います。ロスチャイルド云々は、私にはよくわかりませんがね。金持ちが力を持っているのはそのとおりで、金持ちはもっと金持ちになるのもそのとおりでしょう。桁違いに金持ちが桁違いに力を持っている。そうなんでしょうな。しかし、何から何まで動かしているというわけではないに違いないですしね。構造的に、金持ちに資金が集まるようになっている、というのはそのとおりでしょうな。これを変えたい、わからんでもありません。

まあ、大風呂敷は別として、本書のしまいの方で書かれている、『地域通貨』については、マジに検討する価値がありそうですな。本書で提言されているのは、減価してゆく地域通貨でして、フツー一般で試みられているのとはちょっと違いまして、持っていると段々5%、10%と価値が減らされてゆく。だから、早く使わないといけないわけで、退蔵されることがない、どんどん市場で使われることになります。

この不況の問題点の一つは、皆が、不況、失業におびえてお金を使わなくなっていることですな。車を買わない、デパートで買い物しない、高いものは買わない・・・。消費が落ちれば企業の売上が減り、設備投資が止まり、雇用が減り、またまた消費が落ちて、というマイナスのスパイラルに陥ってしまいます。社会全体では、もっと働きたい、もっと生産して世の中のためになりたい、もっとサービスを提供したい、と考えている人が多いのに、その力が余ってしまう。社会の生産力があまっている、遊んでいる状態、これが不況だとすると、課題としては、これを使うようにすること、ですな。あまっているサービスを購入し、もっとモノを買うようにすればよい。それで経済が回るようになる。

減価する地域通貨はこの課題を解決するために考案されていて、減価するまでに使わないといけないので、次々に通貨の所有者が変わり、自分の手元に来たらすぐに使ってしまう。これ経済回りますな。需要が喚起される、という言い方でもかまいませんがね。

カンキョーがどうの、とか、資本主義がどうの、みたいなイデオロギーなりキレイ事なりと一緒に議論されると地域通貨もアホ臭く聞こえてしまいますが、こうした『機能』をベースにした議論は有効で、マジに検討されるべきだと思いました。



百年に一度の危機から日本経済を救う会議 番外編


高橋洋一本、最新刊。

対談形式。本書でも、日銀の金融政策が批判されている。著者は財務省出身者ですが、財務省のこともコテンパンにやっつけているので、だから日銀批判をしているというのはあたらないんでしょうが。

本書で一貫して批判されるのは、日銀、お役人、マスコミの不勉強なり、自分の利益だけを考えていること、事なかれ主義が過ぎて全体としてみると大きな損失となっていること、それを糊塗するにあたっての汚いやり口、あたりでしょうか。

重要政策を決めるにあたり、十分な理論的な検討、議論がなされるよりは、自分にとって利益かどうか、数人が談合して決める、みたいなことですかね。データや理論はそちらにあわせて適当に作られる。それを暴くにもマスコミも学者も飼いならされていて・・・、という構図です。

気楽に読めて、面白い。アハハ、そうなんだろうな、というのが感想。


2009年2月26日木曜日

『現場に解あり』 新連携で中小企業支援 番外編


『新連携』と呼ばれているようですが、中小企業基盤整備機構が、中小企業の連携を支援する施策があるとかで、それを紹介しています。中小企業が苦手とする分野、たとえば新規事業のマーケティングや、事業計画の中身にまで踏み込んで指導するとかなんですな。

『連携』というのは、中小企業だと新事業を単独でやり遂げるのは難しいんで、いくつかの企業が得意分野を持ち寄ってチームを組んで実現するしかないわけですが、お役所はそのチームに補助金を出したり専門家を派遣して指導する。

本書では携帯型の消火器開発の例が冒頭に出てきて、低温の二酸化炭素を吹き付けて火を消すという基本技術は持っているが、消火器のバルブを作ったり、カッコの良いデザインする力は無い、という会社が他の会社と組んで見事立ち上げるというハナシが紹介されています。

この施策が面白いのは、中小企業の今後の発展の方向性なり、今の中小企業一般の課題を示唆しているところじゃあないですかね。

技術は持っていても、商品化し市場に売ってゆくまでの力が無い → だから大企業に技術を持っていかれる、なり、安く買い叩かれたり、あるいはパーツの納入業者としてしか関与できない。おいしいところを大企業に握られてしまう。単独では力がなくても、複数集めればナントカなるわけで、連携、というのは中小企業の一つの可能性だと思えるんですね。

日本では『お墨付き』をもらうことが結構大事で、資金調達するにも、この施策に認定されることが結構効いたりするらしいですな。何年か前に『産業再生機構』ができて、民間の再生ビジネスにも拍車がかかったように、こうした施策で中小企業の発展に民間も、金融ももっと積極的に取り組むとかいう機運が出てくると良いんですが。

本書では、医療関係の機器開発の事例も出ているんですが、この施策に認定されて一番助かったのは、厚生労働省の認可をもらう時に、この施策で派遣されたお役人のマネージャーが活躍してくれたことなんだとか。

お役所の壁にお役所が挑む。

アホくさ。


2009年1月7日水曜日

資本主義と自由④ 第2章 自由社会における政府の役割

『日本の統治構造』の頁で、省庁代表制についてご紹介しました。規制される側と規制する側が一体化してしまって、省庁が規制される側の利益代表になってしまっている、という指摘です。

これは何も、日本だけの問題ではなく、フリードマンも米国の問題として、かつて本書で指摘しているんですね。

『鉄道による搾取から消費者を守るために州際通商委員会ICCが組織された』、

その後、航空機等、鉄道が交通手段を独占しているとはいえなくなっても、まだICCは廃止されず、

『本来の目的から逸脱し、鉄道をトラックその他の脅威から守るための組織になっている』


さて、フリードマンの言によれば、自由を求めるならば、政府による強制はよくないので、できるだけ市場による配分を行うことが望ましいことになります。なぜならば政府、政治によって物事を決めれば、多数決で決まってしまい、小数意見が排除されるから。市場に決めさせれば小数意見も反映されるし、オーダーメイドで必要な分量だけ小分けできる。国家がやるとそうも行かない。

『いわば市場は実質的な比例代表制として機能する』

うまいですな。

市場で社会の絆がほころびる恐れが減るというんですが、これはどうですかね。今ならフリードマンも別のことをおっしゃるかも知れませんな。

では政府はどういう分野に必要なのか、

①市場にルールを適用して守らせること
②技術的独占と外部効果

②で技術的独占というのは、電話サービスなんかがこれにあたり、一社でやるほうが圧倒的に良い場合です。それでも、政府がやるより民間の独占の方が好ましい、とフリードマンは書いてます。政府は動きが遅いので、技術が変化しても対応できず、鉄道が逆に保護されてしまっている、先ほどのICCの例で説明しているんですね。

外部効果というのは、社会に役には立っていても経済効果を及ぼす範囲が限定できず、広く拡散してしまうケースです。都市の公園なんかは、たくさん人が通るので、いちいち料金を取っていられず、民間ではやっていけない。グランドキャニオンのような特定の場所で田舎にあれば、それを目的で人がやってくるので料金も徴収できて民間でも成立する。田舎の国立公園はやめて良い、ということなんですな。



2009年1月4日日曜日

日本の統治構造③(資本主義と自由関連)

日本の統治構造2

もう少し補足しましょう。
自由との関連です。

①日本では既存の業者が優先されるという意味で経済的自由は限定されている。
大事なことですが、省庁代表性は、既存の業界、すでに省庁から認められた業界、業界に所属している業者を代表しているということですね。だから、そこに、そうした政策コミュニティに所属していない人、業者は取り残されていることになりますな。当然新規参入や新機軸は既存業界秩序を乱すので制限されたり認められなくなったりするわけですな。

取り残された人たちを代表してはもらえない。だからTAC社長は泣き寝入りするしかなかったんですな。『日本の食と農』でも、農家はJA全員加入。加入しなければ補助さえ受けられず、守られない状況がある.

これでは活力ある経済など生まれない、感じがしますなあ。

それは良いとして、

②経済的自由が制限されている= 政治的自由も制限されることになる。

監督される業界としては自分達を代表している省庁=現政権を支持せざるを得ない。対立できるわけがありませんね。逆に、TAC社長のようなアウトサイダーを代表してくれる官庁は無いんですな。つまり、この点で政治不在なのと同じです。つまり、これ、官庁や既存業界団体に擦り寄っていかなければ新規参入や新しい試みは許されない。洗面台の無い散髪屋がなぜいけないのか。いろいろ屁理屈で難癖つけて認められなかったりするわけですな。

都度、既存の業界のその時の事情によって、官庁が恣意的な判断を下す、これがいけない。薬害エイズ事件、あれが起きた原因は何だったでしたかね。

恣意的、という言葉をこういう文脈で使ったのは、ハイエクです。『隷従への道』で、共産主義や全体主義ががいけない理由は法の支配によらず、支配者が恣意的な判断を下し、市場の自由な資源配分機能がゆがめられるから、という批判です。

共産党に擦り寄っていかなければ何もできない国、と日本の統治構造。基本的には似てませんかね。

自由な投票は認められていても、結局独裁政権とあまり違わない。投票に行っても、いまいちむなしい感じがするのはそのせいかも知れません。熱心に政治活動している人たちを見て、しらけるのもそのせいですかね。彼らは建前を言っていても自分のために活動している、ように見えてしまう。

参入制限や、規制はあって良いのですが、今業界を構成している人たち、政策コミュニティに属している人たちを守り維持するという観点では良くない、ということですね。




2009年1月2日金曜日

日本の統治構造②(資本主義と自由関連)

本書のテーマは日本の統治構造と、その改革への提言といったところでしょうが、どこにインパクトを感じたのか。

日本の政策決定、実行のプロセスを簡潔に説明しているという点です。

前回、赤字で強調しましたが、日本の省庁は、監督する業界を代表して政策立案を行い、監督する業界を通じて政策実行を行うというトコです。これ、官僚が業界サイドに立っているだとか、既得権者を守るばかり、だとか、それは天下り先確保のためだ、と指摘されることは多いのですが、本書はそうした現象面だけでなく、どう行われているのか、なぜ政治がそうした官僚のビヘイビアを修正できないのか、を説明しています。


官僚が規制緩和に反対するのは、権限を手放すことは組織の存在意義を小さくすること、予算を削られること、天下りを減らすこと、につながる、とかいう、単純な官僚悪人論は、やはりムリがありますな。

そうではなくて、彼らの存立基盤、支持基盤(省庁代表制であるので支持基盤を持っている)が業界団体なのだと理解すれば、非常に良くわかる。業界から嫌われたら、その部局は評価されない。すばらしいお役人だ、と監督する業界から支持されてこそ出世できる。


専修学校に進出しようとして認可を区にもらいに行くと、区の担当者は区の既存の専修学校の業界団体の事前了解をもらう必要があると言ったそうです。その団体の理事長に会いに行くと、マーケットの規模からしてこれ以上新規の学校を受け入れる余裕はないとして断られたそうです。業界内で申しあわせてTACの参入を阻んでいたそうです。ある種の談合ですね。 

これは区のお役人で、スケールがちょっと違いますがね。

著者は特にこうした点を批判しているわけではありません。頭デッカチに恣意的に国民を支配しているのではなく、民意の吸収ルートを持っている、ないしは、業界の意向に縛られて行動している、という意味でむしろ好意的に捉えている節もあります。

著者の主張のポイントとは違っているかも知れませんが、本書でプロセスが明らかになることによって、じゃあ、どうしたら良いのかを具体的に考えることができるようになりますな。

批判ばかりしていては、問題は解決しないわけですが、どうすればよいのか。

①各省庁の支持基盤、存立根拠を、監督する業界から切り離し、緊張関係を持たせること
②各省庁の支持基盤、存立根拠を、監督する業界以外の場に構築すること

この2つでしょうね。

官僚を批判しても仕方ない感じがしますな。むしろ、きちんと支える必要があるんでしょうな。監督する業界からそっぽを向かれたら何もできない状況を放置したままでは何を変えてもどうにもならなくて、もっと別に彼らを支える仕組み、そう、国民全体で支える仕組みが必要ですね。それがあって初めて、特定の既得権者だけでない、国民全体にとってあるべき政策が出てくるんでしょうな。


日本の統治構造①(資本主義と自由関連)

本書は日本の統治構造を分析した本で、私としてはここ最近に読んだ本では一番インパクトを感じました。まず、ざっとその内容をご紹介しておきますと、

①誤解される議院内閣制

議会と権限を分けあう大統領制と異なり、議院内閣制は本来強いリーダーシップを発揮できる制度なのだが、長く政権交代がなかったため、また閣僚も派閥推薦で選ばれて、派閥代表の位置づけとなっていて、首相自身で閣僚を選べない(小泉さんは例外)。かつ制度的にも首相権限が弱いということから、日本では誤解を生じた。本来は党総裁を押し立てて選挙にのぞみ、勝った政党が内閣を組織する。議会と大統領に権力が分散する大統領制よりはるかにリーダーシップを発揮しやすいはずだ、っていうんですね。

②官僚内閣制
日本では、首相権限が弱く、内閣総理大臣が上位の権威を持たないのであらかじめ官僚が根回しの上、異論の無かったものだけが閣議決定される。各大臣もポスト配分の関係から1年程度と短期交代で、十分政策を理解する間もなく官僚の振り付けに従うばかり。かくして、各大臣は各省庁の代表者として振舞うことに。各大臣は国民の代表ではなく、官僚を代表する形となり、官僚内閣制と呼ぶ。

③省庁代表制

省庁は積み上げ方式で意思決定を行う。稟議システムで長い時間をかけて反対の起こらないようにするが、時間がかかり大きな方針転換には向かない。ボトムアップで政策現場に近いところから発議するためスムーズに政策が行われるメリットもあるにはあるが、だから大胆な発想は生まれにくい。積み上げられた各政策の総合調整も行われるが、あくまで微調整。

各省庁は業界団体や関連の外郭団体を多く抱え、政策コミュニティを形成。各省庁は彼らの政策要請を吸い上げて政策を立案する。また、政策実施も、そうした業界団体など、監督する業界を通じて行われる。その意味で、各省庁は、監督する業界を代表しているとも言え、これを省庁代表制と呼ぶ。

国民は(政策コミュニティに属することで)投票や政治への市民参加という形をとらず行政に直接働きかけて政策実行に関与するルートを持つことができる。

欧米で見られるような、規制する側、規制される側という対立関係が弱い。対立関係というよりむしろ政策立案、政策実施を一部民間と共有することで融合関係が見られる。

④官僚化する与党
党本部が立派。党の部会で議員があらかじめ詳細まで議論を尽くす。官僚も事前説明にやってくる。族議員と呼ばれる有力議員には事前根回しを行う。政府の提出する法案は党の総務会で承認されてから閣議にかけられる。すでに国会提出された際には異論がない状況。かくして国会審議は儀式となる。野党との論戦のみ。すでに党で細部まで積めているので、修正にも応じられない。

与党で実力者となるには、勉強して族議員となり官僚に影響力を行使できるようになる必要がある。かくして、政治家も官僚的に細かな政策をベースに行動するようになり、官僚的政治家(行政的政治家)となってしまい、民意集約に大胆に動く政治家が減ってくる。行政運営や政策実施に関心を集中させてしまい、制度改変や政策間調整といった大がかりな政治に関心を失ってしまう。

⑤結論

本来の議院内閣制の意義を取り戻し、強いリーダーシップを発揮できるようにし、本来の国民のための政治を取り戻すべき。選挙で選ばれたときの総裁を首相にすべき。選挙抜きで総裁選びを党の事情でやるのもまずい、等々。